絵を描いている時は、深い霧の中を手探りで歩いているような気持ちになる。
私にとって絵を描くことは、目に見えず理解できないもの、
自分なりに推し量ることしかできないものを何かの形に比喩することだ。
純粋な視覚だけでは現実の物事を見ることができない。
また見えているものの本質について何かを知覚したとしても、不確かなことしか表現できない。
頭の中に浮かんだイメージを、描いたり消したりしながら、
把握できないものを把握しようという試みを繰り返す。
イメージは次第に移り変わっていき、たまにふと霧が晴れて何かが見えるような気がするが、
すぐにまた見えなくなってしまう。
その繰り返しの中で、内面が感じたものを再生しようと絵を描いている。
境界という場所が気になっている。
日々閉じられた空間の中で生活していて、ある時境界のしきいにほころびが生じ、破れると、
世界は無方向に溶けだして曖昧になり変化がおきる。
その時形を失い、解体してしまったものの向こうに、新しい可能性への希望を感じる。
その刹那を絵に描いてみたいと思う。
そんな試行錯誤に喜びを感じている。
本多 紀子